ヘルシー志向という反動物的な志向
突然だが、皆さんは”食べること”が好きだろうか。
私は大好きである。少しでも美味しいものを少しでも多く食べたいと常日頃から思っている。常日頃はこれ以外のことを思っていないと言っても過言ではない。
私にとって食事の場は神聖な場である。一大イベントである。常に最高のコンディションで食事をしたいし、そのような神聖な儀式をするにあたり不快な言動や行動をしている者を見ると即鉄拳制裁である。即ジャーマン・スープレックスである。それだけ大事だと思っているし、だからこそ私も食事をする際はなるべく他人を不快にさせないよう細心の注意を払っているつもりだ。とにかく私の中で”食”は大部分を占めているということを念頭に入れて頂きたい。
人は何故、食べるのか。
現代では”食”には様々な意義がある。単純に味を楽しむため、その土地の風土を感じるため、おせちや鰻のような風習、コミュニケーションの潤滑剤として使われることもある。
しかし、何か大切なことを忘れてはいないだろうか。
─────そう、生きるため、である。
人の体は口から入れたもので出来ていて、そして人は口から入れたものからエネルギーを得て生活している。
”食”無くして人は生きることなど決して出来ないのである。
”食”における1番の意義は間違いなく生きるためであり、その他の意義は二次的なものに過ぎないのだ。”生きるため”という圧倒的大前提の前に他の全ての意義はただただ平伏す事しか出来ない。あまりにも無力。
しかし、昨今では不思議なことが起こっている。
ふと、スーパーで棚を見るとこのような文言が。
「カロリー50%オフ!!!」
カロリー50%”オフ”…?
オフ?
デメリットではないか?
私の解釈が正しければ「カロリー50%オフ」は「カロリーを50%減らした」という意味になる。カロリーが50%減っている。これは間違いなくデメリットではないだろうか。増えているならともかく、カロリーが減っているのだから。
人は、食べたものからエネルギーを得ている。
人は、カロリーに生かされている。
食べる物のカロリーが50%オフになった時、人は確かにカロリー50%分、死に近づく。
もしあらゆる食品のカロリーが50%オフになったとしたら、いつも通りのカロリーを得ようと思った時、当然だが倍の量を摂取しないといけない。これは生きる上で非常に大きなデメリットではないだろうか?
生きるための食事のカロリーをオフにするという奇妙な逆転現象が起こっているのだ。
何故、スーパーはそのようなデメリットを誇らしげに掲げるのだろうか。素直だと言えば聞こえは良いが、ただの自虐ではないか。
当たり前だが、食べ過ぎた人は運動をしないと太る。偏った食生活は免疫力を下げ、内臓を悪くする。健康寿命も縮むだろう。
ではどうすればいいのか。食べ過ぎなければいいのだ。
何も厳しいことなど言っていない。食べるなと言っているわけではなく、食べ”過ぎ”るなと言っているのだから。
しかし、運動したくないが食べ過ぎたい、でも健康でいたい、太りたくないといった怠惰で傲慢極まりない人がいるから、ヘルシー志向の商品にニーズが生まれるのだ。人を生かすためのカロリーを減らすという反動物的な商品が生まれるのだ。
本来の生きるためという真っ当な目的を持った食事を楽しみたい私のような人間の神聖な領域を、運動したくないが食べたい、しかも太りたくない、健康でいたいという怠惰で傲慢極まりない人間が蹂躙しているのである。
しかも、そのような人間が一定数いるからこそニーズが生まれ、カロリーオフのマヨネーズ、糖質オフの炭酸ジュース、油分カットの唐揚げといった訳のわからない商品が続々と生まれているのである。マヨネーズはカロリーを、炭酸ジュースは糖質を、唐揚げは油を、それぞれアイデンティティとして持っている。にも関わらず、愚かな人類は彼らからアイデンティティを取り上げ商品化する。
そのような商品を買わなければいいという話ではない。
確かに、世はヘルシー志向になっている。
そして、スーパーに行くとそのような商品が大量に並んでいたりする。むしろヘルシー志向の商品に重きに置き、陳列棚を見てもそれが大半を占めていて、しかもそっちの方が安いような商品もある。
レストランやコンビニのホットスナック等でそうされたらこちらとしても選ぶ手段が無い。
ここまで来ると、ヘルシー食品を選ばないようにすればいいとかそういう次元では無いのだ。狭まる選択肢。肩身が狭い。
「当店では揚げものは油分をカットする特別な調理法を採用しています!」じゃあないんだよ。カットしないでくれ。その油分も含めて私は金を払って買っている。
ここから先、このような傾向が続くと思うと怖いのだ。
私は、そのようなカロリーも油も全て含めて食べたいのだ。運動をするため。体を大きくするため。そして何より、生きるため。カロリーも油分も丸ごと愛し取り込みたいのだ。
今一度、”食”を本来の動物的な在り方に立ち返らせ、カロリーオン!糖質増量!!油分マシマシ!!!のような文字列が世の中に溢れかえることを願ってやまない。